2017年6月12日月曜日

SCIOコンセプト:費用対効果のよい臨床試験の実施



過去20年間における新医薬品の開発費用は物価上昇率より7.4%
上昇しており、こうした上昇は臨床試験が主な要因とされています。
Dr. Candida Fratazzi M.D.
Founder/CEOBBCR Consulting
(Boston Biotech Clinical Research)


新薬開発には膨大な費用がかかることはよく知られています。2014年の米タフツ大学医薬品開発研究センターで実施された調査から、「新規処方医薬品1品目の販売承認の取得までにかかる税引前費用は、平均2兆5580億ドルと算出された」とDr. Henry G. Grabowski やDr. Ronald W. Hansenによる報告があります。過去20年間における新医薬品の開発費用は物価上昇率よりも7.4%上昇しており、この一因となっているものに臨床試験が挙げられます。しかし、バイオテクノロジー関連の研究費用が増大しても臨床開発の成功率が上がっているわけではありません。むしろ、バイオテクノロジー業界におけるイノベーションの大きな支障となり、医薬品や医療機器の価格高騰へと繋がり、消費者にも影響を及ぼしています。将来の医療に役立つライフサイエンス製品を開発し、開発プロセスのコストパフォーマンスを高める為の最善策を考える必要があるのです。


「共通認識」とは?

バイオテクノロジー関連企業では、販売候補の新製品が創出されると非臨床試験プロセスにおける開発が行われます。開発候補品のバリデーションが完了すると、イン・ヴィトロ研究または動物を対象とする安全性及び有効性に関する試験が行われ、次に臨床試験へと移行して第1相、第2相、第3相試験が実施された後に、当局による製品販売承認へと進みます。何十年もの間、この業界に属するすべての企業が治験に対し同じ道筋を辿ってきました。

そこで、臨床治験計画届(Investigational New Drug: IND)や医療機器に対する適用免除(Investigational Device Exemption:IDE)の計画の仕方に着目することが重要となります。またそれは本稿で紹介する質問に対する回答の鍵となるものでもあるのです。




バイオテクノロジー/製薬企業では基礎研究が完了すると、IND/IDE申請書提出のための作業に移ります。被験者に対する一定レベルの複雑性や侵襲性のリスクを示した医療機器のみがIDE申請を行うことになります。

IND申請では、フォーム1571、1572、3674、CMC情報、毒性情報、イン・ヴィトロ研究及び動物モデル試験に関連する過去の試験からの情報について、FDA(食品医薬品局)へ提出することが求められています。さらに(1)治験計画 (2) 治験薬概要書 (3)治験実施計画書といった臨床関連情報の提出も必要となります。

IDE申請の場合、過去の研究、リスク分析、機器に関する情報、製造、ラベリング・モニタリング手順、環境への影響に関する調査についてなど、初期の調査研究で得られた前臨床情報の提示が求められます。しかし、IDE申請を進めるという企業の意向が決まり次第、 (1)治験計画 (2)治験医師に関する情報 (3) IRB に関する情報 (4)治験実施計画書のFDAへの提出が求められます。

上述のプロセスは数十年間行われてきたものです。こうしたプロセスのどこで臨床試験の実施が困難になるほどの高額な費用が掛かっているのでしょうか。また、臨床試験を適切に実施するための解決策には何があるのでしょうか。

1. 医薬品または医療機器バイオテクノロジー企業としては、
  •  製品の損失となるミスを回避する
  • 開発にかかる費用の削減及び期間の短縮化を図る
  • 被験者の安全性を確保するために臨床試験を最適化する
2. 患者としては、
  • 治療費が低くより良い治療法を求める
  • 適切な治療を受ける
3. 社会全体としては、
  • 優れた治療を個人に提供する
  • ヘルスケアにおける持続可能性を向上する
  • イノベーションを推進し、社会への付加価値を創造する

ガイドラインに示されているように、IND/IDE申請はいずれも治験計画、治験薬概要書、治験実施計画書の提出が求められています。審査を受けるバイオテクノロジー企業は、主に臨床計画書においてとなりますが、治験薬概要書、治験実施計画書においても開発中の製品の根拠を示す必要があります。IND/IDEには臨床開発ストラテジーに関する記述や、規制当局からの質問に対する回答も提出しなければなりません。

次に、費用対効果の低い臨床試験を引き起こしてしまう、犯しがちなミスをご説明します。


「犯しがちなミス」とは?

臨床試験費用を効果的に活用できないといった状況を生む、多くの企業が犯しがちなミスとはどのようなものでしょうか。それは、クリニカルストラテジーの価値を認識していないがために、マイルストーンに基づいた意思決定が行われ、開発目標やギャップを見失ってしまうということです。

臨床試験全体を遂行するに十分な計画をしていると確信している医薬品及び医療機器企業が大半ですが、多くの場合、IND/IDE申請は第1相試験の実施計画書に限定されています。これでは、規制当局による製品レビューは完璧ではありませんし、治験依頼者となるバイオテクノロジー企業は、臨床研究の開発手段について別の方法を模索したり、適切であるだろうその他の選択肢を検討したりすることに制限がかかってしまいます。同様に、臨床開発のいずれの段階でも、単一部門よりも複数の部門で協力し合うことが非常に重要です。多くの場合、薬事文書の準備や提出に関する業務は薬事知識を有する人員に、試験実施計画書の作成は一意に臨床試験実施担当者に任せてしまい、関連する医療ニーズを的確に理解しないで計画書作成の意思決定がされているのが現状です。

治験依頼者である企業は、大抵、IND/IDE申請に向けて第1相試験の計画書を準備することで十分だと捉えており、ストラテジーもないままにIND/IDE申請を行ってしまいます。分かりやすい例を挙げてみましょう。
多くの場合バイオテクノロジー企業では、第2相試験からエンドポイントのバイオマーカーや製品の差別化について検討を開始します。しかし、このような検討は計画作成の初期段階の「クリニカルストラテジーの計画」として検討すべき内容であり、これによりバイオテクノロジー企業は、適時に必要なデータを入手することが可能となるのです。


図 A: Synthropy調査結果


図Aは第2相試験の不成功原因について示すもので、第2相試験の不成功例の少なくとも29%が臨床開発開始時のストラテジーが不十分である、あるいはストラテジーを立てていないことに起因していることが分かります。

そのような場合には、「ストラテジー」の概念が「プロセス」の概念と混同されてしまっているのです。この場合の「プロセス」を定めるという行為は、地図を見ながら山に登ってはいるが、最適なルート、障害物、時間、安全性についての手掛かりは全くない状態と類似しています。一方で、「ストラテジー」を考えるということはハイキングにかかる時間や、適切な持ち物、遭遇するかもしれない問題や危険をすべて把握し、最悪の場面に遭遇した場合の解決策も準備している状態となります。

薬事規制の道筋が明確になれば、経済的にも科学的にも最も適切なアプローチを積極的に選択することができ、タイムリーなリソースプランニング、そして何より臨床試験成功への最善の策の見極めに確信が持てるようになるのです。


図 B:クリニカル/薬事的ストラテジーの基礎及びフェーズにかかる影響


IND/IDE申請における規制に基づいた臨床試験の薬事的ストラテジーの策定に必要な要素を図Bにまとめました。こうしてみると、包括的なクリニカル/薬事的ストラテジーを策定し、製品に応じてカスタマイズすることは、第1相/第2相以降も臨床試験開発のあらゆる段階に効果が波及するであろうことがわかります。


臨床計画とは?

臨床計画という用語は、単に一連の事象を示す言葉ではありません。総合的分析結果を示すものであり、「薬事的な臨床開発ストラテジー」を策定するものです。個人的には「臨床改革ストラテジー(SCI:Strategic Clinical Innovation)」と呼んでいます。これには第1相試験から概念実証試験(proof-of-concept study)までが関与してきます。研究的試験の根拠、治験対象母集団の選択、IND/IDE申請後の臨床試験デザイン、動物における毒性データから予測される開発上のリスク、あるいは同一製品また同一クラスに分類される製品を使用した過去に実施されたヒト試験などの情報が必要とされます。

SCIO(Strategic Clinical Innovation Organization)コンセプトのバリュープロポジションは、臨床研究へのアプローチの合理化、トライアルモデルへのストラテジーの導入と費用対効果向上の実現です。ストラテジーがイノベーションの鍵であるといった考えを基に、IND/IDE申請における医薬品開発プロセスを改め、臨床試験開始前の段階で製品に適したクリニカル/薬事的ストラテジーを導入することで、臨床研究全般におけるイノベーションが可能となります。SCIOコンセプトで重要なのは、非臨床試験からIND/IDE申請及びヒト試験までの移行の時期に時間をかけることです。SCIOコンセプトを導入することは革新的ソリューションとなり、企業では医療や市場のアンメットニーズ(未だ満たされていない医療ニーズ及び市場ニーズ)、継続的薬事イノベーション、医療需要を満たすことを目的とし、非臨床データの評価を行うようになります。SCIOコンセプトでは、薬事的なバックグラウンドと科学的、医学的知識との融合、及び将来の医薬品のあるべき姿を十分に理解することも必要となります。

今日における臨床研究の実施や臨床試験デザインの決定は複雑かつ多大な労力のいる作業となっていますので、一般的な段階的アプローチではなく、包括的なストラテジーに従って進めることが重要となります。SCIOコンセプトでは一元化された総合的なストラテジーの策定が導かれ、そのなかで関連部門が製品開発及び臨床試験の双方の最適化に関与して行くこととなります。最終的には、薬事的な臨床試験ロードマップが作成され、デザイン重視の試験が計画され、試験デザインの合理化を図り、臨床計画において各試験に一意的な目的が設定されることとなるのです。これによって、データセットが完成されないがために費用や時間をかけて同じことを繰り返さなければならない状況を回避することが可能となります。

これは非常に重要なこととなります。なぜなら、臨床試験に関する適切な薬事的ストラテジーやロードパップを策定せず、この段階を省略してIND/IDE申請書を提出すれば、製品開発にとても重要な規制当局による有用なフィードバックやアドバイスを受ける機会を逸してしまうからです。投資者側にとっては、規制当局からの製品開発計画への薬事的フィードバックやお墨付きをもらえるということは何より歓迎されるものです。さらに、臨床試験に関する薬事的ストラテジーやロードマップが策定するということは、ライフサイエンス製品開発で一番費用のかかる臨床試験の費用対効果を最大限にできるということなのです。




臨床試験の開始までに臨床試験の薬事的ストラテジーを策定し、ライフサイエンス製品の開発を最適化させれば、費用対効果を著しく高めて臨床試験にかかる費用と時間を最大30%削減することが可能となります。また臨床試験の被験者数の縮小、達成可能なエンドポイントの選択、PoCの特定などのさまざまなベネフィットが想定できるのです。臨床試験を実施するための費用、時間、リスクを考える際には、臨床計画及び臨床試験デザインに対するセカンドオピニオンは貴重であると考えます。


結論

臨床試験に関する薬事的ロードマップやストラテジーの策定は、コストパフォーマンスの高い臨床試験を実施するために必須です。臨床試験におけるバイオテクノロジー企業は、ストラテジーとロードマップを策定することは今日の臨床試験にかかる費用対効果の問題を解決する鍵となることを認識する必要があります。
臨床開発やIND/IDE申請準備にストラテジー策定を組み入れるということを特別な作業と捉えたりせず、ストラテジー策定が最重要事項であり、これによって臨床試験開発が単純化され、非常に大きな利益を与えてくれると認識することで、誰もが犯してしまうミスは回避できるのです。


著者のご紹介
Dr. Candida Fratazzi
バイオメディカル研究分野で25年の経験を有し、SCIOコンセプトを開発。臨床開発におけるイノベーションを積極的に支援することを目的としたBBCR Consulting (www.BBCRConsulting.com) 社を2009年に設立。免疫学の上級学位を取得している。希少疾病の専門家でもあり、のう胞性繊維症、ゴーチェ病、多発性硬化症などの研究に取り組む。バイオテクノロジー、医薬品、医療機器企業のコンサルタントとして、臨床/薬事的な開発ロードパップやコストパフォーマンスの良い臨床試験デザインについてアドバイスを行う。

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