2017年9月19日火曜日

QAについて:プロサッカーとの類似点及び意外に知られていない4つのポイント

QAとプロサッカーには多くの共通点があります。
何が頭に浮かびますか?
Beth Pedersen,
Marketing Communications, MasterControl


1979年は様々な重大な出来事があった年でした。ソニーからウォークマンが発売され、マイケル ジャクソンが自身の成功の先駆けとなるソロアルバム「Off the Wall」を発売、マーガレット サッチャーが英国史上初めて女性首相に選ばれました(サッチャー女史についてはこの後もう少し詳しく説明いたします)。

しかし、品質分野で働いていた方々は、1979年と聞くと、別の出来事を思い出すはずです。この年は、FDAの21 CFR Part 58 (1)に「Quality Assurance(QA)」という文言が盛り込まれ、最初のGLP規制として認識されました。

加えて1979年は、QAの専門家であり、現在はスコットランドに拠点をもつGxPコンサルティング会社のTMQA社ディレクターを務めるDr. Andrew WaddellがQA分野での事業を開始した年でもあります。

同氏は、欧州で開催されたマスターコントロール ユーザー向けイベント「2016 Masters Conference」で、“The Challenges Facing Today’s Quality Assurance (現在QAが直面する課題)”と題した基調講演を行いました。Waddell氏は、ユニークな人生経験と37年にわたるQA分野での経験からまだあまり知られていない、QAの5つの側面について評価を行い、およそ40年が経過した規制が抱える問題解決にチャレンジし、品質業務における輝かしい未来について言及しています。


よく知られていないQAに関する5つの認識



1.  品質保証と品質管理の違い

Waddell氏がエジンバラ大学ヒト病理学の教授を務めながら研究者であったころ、別のキャリアに進むきっかけとなる出来事がありました。発端は、1979年5月にサッチャー氏(2)が首相に就任したことであり、「サッチャー政権が支出の削減を行い、医療分野での仕事の魅力が半減してしまった」とWaddell氏は述べています。それから1か月後にFDAからGLPが発令され、大手CROからWaddell氏にQAにおける新概念導入への参加要請がありました。

規制対象業界の発展に伴い、QAに対する認識は変わり、QAとは何であるか、また何がQAではないのかについての誤った認識が、専門家である監査担当者の間でも生じてしまうことが度々ありました。こうした誤った認識のひとつに、QA(品質保証)と品質管理(QC)は同じであるという考え方です。定義上、「保証」とは確信を提供するという意味ですから、QAに当てはめれば、品質に関する要件を満たすという確信となります(3)。一方、QCは試験に着目し、実際に品質要件を満たすものであるというエビデンスを提供することとなります。





「QA=品質管理と考えるのは根本的な間違いです」とWaddell氏は述べています。「我々の目的は、何かを見つけることではありません。我々の仕事は、品質に関する要件を満たしていることを保証し確信を提供することなのです。」

監査とは、こうした確信を提供する目的でQA分野にて使用されるツールのひとつなのです(4)。


2.  品質の二面性
品質とは何ですか?その答えはシンプルではありません。品質を完璧に定義する1行の文章は存在しないかもしれませんが、Waddle氏は文献から古典的な品質の定義を2つ紹介しています。

品質:明確に定められた基準に関するコンプライアンス
品質:顧客満足(顧客への感動提供)

問題は最終製品自体にあるのではない、それを規定する基準に問題があるのです。「基準が不適切であれば基準を満たしたところで品質は確保されません」とWaddell氏は述べています。

二番目の定義は一般的に使われていますが、やはり問題があります。スコットランドにあるタイヤ販売ショップとのWaddell氏の体験談を挙げています。顧客を100%満足させることがショップの方針であることを理由に、タイヤの価格を定価よりもずっと低い金額にしてくれないかと尋ねてみたという話です。価格が下がることで顧客を喜ばせることはできるかもしれませんが、ビジネス的には誤っています。もちろんショップのマネージャーは拒否していました。

Waddell氏は、いずれの定義も不十分であると述べています。「どちらの定義にも満足できません。理由は、品質には常に2つの側面があるからです。第一になすべきことを実行するということ、第二に正しい方法で実施するということです。


3.  適用される規制は「開発スペクトル(Development Spectrum)」で規定

開発スペクトルは、アイデアの段階から販売製品に至るまでのイノベーションプロセスを示しています。スペクトルの片側は「開発」フェーズで、オリジナルのアイデアを作り上げ、無限大の可能性を探っていきます。このフェーズでは「なすべきことを実行する」ことになります。このタイミングでは、何を創造し、どのような特徴が製品の付加価値となりうるのかを決定していきます。

スペクトルのもう一方側は「証明」フェーズで、ここでは正確性が必須となり、規制や安全に関する要件、顧客からの期待を確実に満たすことが求められます。あなたの素晴らしいアイデアが製品化された後は、製品の正確な動作の確保が必要となります。つまり、Waddell氏がいう上述の言葉「正しい方法で実行する」ことが求められるのです。




革新的なビジネスで創業した小規模企業のような場合には、発掘フェーズのすべての時間を新しいアイデアや製品の開発に費やしてしまいます。こうした企業にとっての品質とは、オリジナリティーや斬新さとなります。しかし、製品を販売するためには、既に多くの製品を販売しているような企業と同じ品質関連規制を遵守する必要があります。こうした企業が注力しているのは、一般的に、堅牢性やコンプライアンスとなります。ですから、革新的事業を展開する多くの企業は次第に解決困難な状況へと陥り、規制遵守が非常に難しくなってしまうのです。

「規制は、堅牢性、予測可能性、確実性などの特性に支配されますが、lifeという言葉はまた違ったものです」とWaddell氏は述べています。「Lifeという言葉はスペクトラムであって、新しいアイデアから販売製品に至るまでのひとつの旅を表します。同時に、品質システムにも反映されるべきものとなります。」


4.  監査担当者の担う役割は様々

監査担当者の仕事内容は明確かもしれませんが、見かけより多くの責任が課せられています。監査業務に加えて、次の役割を担わなければならないからです。

  • 心理学者監査時、規制、治験実施計画書、モニタリングレポートやデータの記録といった監査の専門的な側面に監査担当者は多くの時間を費やします。また、監査対象の場所はどこか、使用されるツールは何か、どのような情報を収集すべきかといった手順的な側面もより細かく見ています。Waddell氏の経験では、専門的または手順上の問題が理由で監査が上手くいかなかったことは、ほとんどないということです。むしろ個人に原因があることの方が多いと言います。「監査実施時の面談では多くの方とお会いしますが、その方々のパーソナリティも様々です。その為、監査担当者はカメレオンのように、その様々なパーソナリティを受け入れ、監査を受ける側の立場に合わせる必要があるのです。」

  • 技術者膨大な量の情報を取り扱っている拠点への監査の場合、従来の監査方法が効果的とはいえません。「多くのケースで、情報やプロセス、システム、手順というものは、必要だからでなく、生成が「可能」であるがために生成されているのです」とWaddell氏は述べています。「紙の山」の管理を避ける為、テクノロジーを用いることを推奨しており、テクノロジーの知識を有する監査担当者への期待が高まっています。

  • 伝道者リスクマネジメントというのは新しい概念ではありませんが、Quality GurusにはじまりTotal Quality Management、Six Sigmaなど、近年品質における革新的な動向がみられます。Waddell氏は、リスク管理を行うことには賛成しているのですが、コスト削減のためのツールに限定してリスク管理を使用することには、警鐘を鳴らしています。「リスク管理は良い事だと思います。ただし、リソースをスマートに適用する目的で使用することが条件となります」とWaddell氏は述べています。「この目的で従来のQA手法を用いるのは問題でしょう。我々は、価値の確認の難しい記録の山の確認に多くの時間を費やすことがあります。」リスク評価のバリデーションを行い、それが意図する目的にかなっていることを確認し、監査担当者は模範を示し企業をサポートしていくことが重要となります。


5.  プロサッカーとQAの様々な共通点

以前はプロサッカーの審判であり、現在はスコットランドサッカー協会のメンバーでもあるWaddell氏は、2つの異なる分野の比較をしています。Waddell氏によれば、サッカーの審判も監査もルール (例:FIFA 試合規則とFDA GLP)と実際の行動を照らし合わせてみることが目的であるので、基本的な類似点が数多くあると言います。プロサッカーチームはすべてが同じというわけではありません。ですから、個々のサッカークラブからのニーズやレベルに応えることができるように、協会のライセンス認定はレベル化されています。Waddell氏はQAがサッカーから学べることがいくつかあると述べています。

第一に、サッカーの審判は、目にした出来事を軽度(minor)、重大(major)、危険(critical)に分類するようなことはしません。QA分野でも同じであれることをWaddell氏は望んでいます。品質監査について、「私は正しいか、誤りかということを論ずるよりも、軽度か重大かに分類することにより多くの時間を費やしてしまっています」と述べています。「実際に問題に取り組むことよりも、グレード分けを論じることにエネルギーが注がれてしまうのです。」

さらに、プロサッカーでは、ルールを守ること、そして審判からの指摘への対応はすべて監督の責任となります。どのように行動するかについて審判からアドバイスすることはなく、ルールを守り様々な問題を是正することは各クラブに一任されているのです。

最後に、問題の報告は、素早く効果的に行われています。サッカーの場合、審判を行った日のクロージングミーティングで、審判は試合中の問題点をシンプル且つ迅速な形で報告します。従来のGxPモデルでは、回答が必要となる場合、レポーティングに数週間かかってしまうこともあります。

プロサッカーの例に倣い、QAでも法令遵守の構造により広く多様性を持たせることを提案しています。「入門レベル」から始め、次第により厳しい基準を満たすことが出来るようになれば、より高いレベルで行動できるようになるはずなのです。

1979年、Waddell氏がヒト病理学の専門家から初のGLPスペシャリストとなり、21 CFR Part 58を読んだ際に「これは悪魔崇拝儀礼のようだ」と感じたそうです。しかし、じっくりと目を通すと考えは変わっていったというのです

「我々にルールは必要なかったのです」とWaddell氏は言います。「実際、品質というのは直感的なものであり、我々にとっての品質とはGLPそのもの、つまり、信頼性及びデータの一貫性の確保に取り組む環境を確保することなのです。」

Waddell氏のプレゼンテーションはこちらから


Dr. Andrew Waddell 
TMQAディレクターを務め、品質管理全般で30年以上にわたる経験からまたこの分野の専門家として国際的に認知され品質保証(QA)の調査に関する教育を行っている。QAシステムの研究及び開発が専門で、様々な「Good Practice」規則に関するコンサルタント及び監査担当者として活躍。国際会議で定期的にQAに関する規制及び監査に関するプレゼンテーションを行っている。

同氏は、2001年、国際的な大手QAリサーチ関連企業であるTMQA社を設立。本社はスコットランドのエジンバラにあり、スロバキアのBratislavaにも拠点がある。TMQAでは、GCP、GLP、GMP、GVP、GC関連規制に関するトレーニングや監査、コンサルタントを行っている。TMQA社のユニークな特長は、コンサルタントや契約者からは独立した同社スタッフ独自の豊富な経験と多様なサービスを提供していることである。
Waddell氏は以前、FIFAのエリートリストに名を連ねたサッカーの国際審判で、スコットランドサッカー協会のプロ委員会(Scottish Football Association’s Professional Game Board)のメンバーでもある。スコットランドライフサイエンス協会の諮問委員会(Advisory Board of the Scottish Lifesciences Association)のメンバーでもある。


著者のご紹介
Beth Pedersen
ユタ州ソルトレイクシティにあるMasterControl本社マーケティングコミュニケーションスペシャリスト。Microsoft社 Novell社 NetIQ社 SUSE社 Attachmates社などの企業に向けたものも含め、ソフトウェア関連でテクニカル分野及びマーケティング分野で執筆を行っている。University of Wisconsin-Madisonライフサイエンスコミュニケーションで学士号を取得し、IT University of Copenhagenデジタルデザインで修士号を取得している。


引用元:
1) 21 CFR Part 58. https://www.accessdata.fda.gov/scripts/cdrh/cfdocs/cfcfr/CFRSearch.cfm?CFRPart=58

2) Margaret Thatcher Foundation. http://www.margaretthatcher.org/essential/biography.asp

3) ISO 9000:2015. http://www.iso.org/iso/catalogue_detail?csnumber=45481

4) ISO 19011. http://www.iso.org/iso/catalogue_detail?csnumber=50675

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