2016年3月22日火曜日

品質監査:継続的改善への近道として


公衆安全衛生における唯一の方法、それは品質の確保です。
Beth Pedersen Marketing Communications Specialist, MasterControl Inc.


GxP規制対象の企業、またはISO認証を取得した企業であれば、監査の重要性は理解されていると思います。事業に関わる規制や基準は頻繁に変更される一方で、その変更点を常に理解し、順守する体制を整え、その状況を常に明示できるようにしておかなければなりません。

規制要件への対応や間近に迫った監査への準備に追われていると、監査組織が企業にもたらす価値を見失ってしまう可能性があります。そして、単純ですが、確認や評価を行わずにどうやって改善を実行することができるのかという、非常に重要な疑問にたどり着きます。

監査という言葉の響きは強力で、ポジティブなイメージが浮かびにくいものです。 監査とは、その性質上、問題点を洗い出す業務であり、問題点にはペナルティが課せられ、時には厳しい処分や費用を伴う場合もあります。監査の準備をする上で頭を悩ますのは、膨大な文書管理や証拠収集、署名や承認の入手、担当者の教育記録、関係部門の調整など、他にもまだまだあります。

監査がうまくいかなかった場合の影響などを考えると、監査のことを考えるだけでも恐ろしくなるのも当然です。Walt Murray氏は、マスターコントロールのQuality and Compliance Consulting (QCC) Services(業務コンサルティングの提供部門)のディレクターとして在籍し、25年以上にわたり442件の監査を実施し、監査における様々な状況を数多く経験してきました。


本記事に関連するホワイトペーパー


その内のひとつの例を挙げましょう。監査対象のある企業は、既存の工場が新規OTC医薬品を製造する契約を締結済であり、製造開始前には、21 CFR Part 211に遵守した体制の確立が必要でした。監査の目的は、技術、製造、洗浄業務を評価すること(=新製品の生産)と関連していました。被監査企業がこうした業務活動の証拠や記録文書を提示できない時点で、Murrayはこの企業が監査基準をクリアすることができないことを悟っていました。

さらに事態を悪化させたのは、作業場が製造業務に適していないことでした。さらに、状況改善に向けた企業の対策を示す計画書が一切提示されなかったことも加わった為、Murrayは監査開始前に強制的に監査を中止しました。その結果、被監査企業と新規医薬品の製造委託契約を締結していた企業は契約解除を決め、数名の従業員が職を失いました。

ただ、信じられないかもしれませんが、Murray氏が関わった監査では、監査の始まりこそ前向きな状況ではなかった場合でも、最終的には圧倒的多数の企業で前向きな結果に繋がったとのことです。監査で指摘が見つかるということは、変更や改良、改善が義務付けられます。その為、監査に対する不安は、「監査」の特長の一つ程度に考えるべきです。

「大抵の人が監査を恐れる理由は、監査担当者が求めているポイントを理解していないことにあります」とMurray氏は述べています。「監査担当者は、常に、企業による規制の遵守及び適合能力のどこに不備があるかに意識を向けているのです。」


品質管理への道

1987年以降、国際標準化機構(ISO)がISO 9000基準を発令し、製造業者や他業種にとっても品質監査が最重要課題として位置付けられ、ISO、アメリカ食品医薬品局(FDA)、その他の規制当局において監査の重要性は高まり続けています。現在、ISO 9001、ISO 14001、ISO 13485、21 CFR Part 820、21 CFR Parts 210-211、21 CFR Part 606、OECD Principles of Good Laboratory Practice、ICH Q7 Good Manufacturing Practice Guide for Active Pharmaceutical Ingredientsなど(これらはごく一部ですが)、数多くの基準や規制が存在し、監査はその規制の下で品質評価や改善を実現するメカニズムとして機能しています。

確認や評価を実施し、最終的に判定を下すといった体系的取り組みの中隔が監査です。監査では、製品、サービス、試験、プロセスやシステムに主眼がおかれます。GxP規制対象企業やISO認証取得企業に特に関係する監査としては、特定の規制・規格などに対する適合性の監査と業務に対する監査の2種類が存在します。特定の規制・規格などに対する適合性の監査では、活動やプロセス、システムが特定の要求事項を満たしているかどうかを評価し、その結果はコンプライアンスや認証取得に直結します。 業務監査の着眼点は、組織が一連の規則を遵守しているかであり、規則の有効性、及び組織の目標達成における規則の適合性に注目しています。

監査の最終的な結果は、監査対象製品やサービス、アクティビティやプロセスに関連するシステムに関する所見、指摘事項、及び結論を含む報告書です。この報告書は、規制対応が確立されているか、あるいは改善を行うべきかが示されています。つまり、問題点を克服するチャンスとなるのが監査なのです。

後手の対応と分類される不適合報告や品質管理試験、顧客苦情処理、逸脱処理のような他の品質管理手法と比べ、監査は問題発生前に処理することができますし、さらに詳細な情報に基づいた判断をすることも可能です。監査にはこのような性質がありますので、恐怖の種以外のなにものでもないと捉えず、むしろ監査こそが継続的改善のチャンスであると認識すべきでしょう。

監査を通じて評価を行い、要件でなくても企業にとって有益なプロセスを理解することにより、現行プロセスの改善が可能となり、より適切なマネジメントや規制遵守にも繋がるので、監査は重要な管理ツールとなるのです。GxP規制対象企業やISO認証取得企業として、特定の規制・規格などに対する適合性の監査や業務に対する監査の結果が「適正」と判断されることが最重要であることは確かですが、「品質監査」を単に行政処分やFDAの監視リスト掲載を回避する方法と捉えるのではなく、企業が業務改善を行う上で、効果的な手段は監査の他にないと認識していただきたいです。


著者のご紹介
Beth Pedersenは、マスターコントロール米国本社のマーケティングコミュニケーション部門のスペシャリストです。マイクロソフトやノベル、NetIQ、SUSE、Attachmateといった企業のWebサイトで、技術やマーケティングに関する執筆活動を行っています。University of Wisconsin, Madisonでライフサイエンスコミュニケーションの学士号を取得し、IIT University of Copenhagenでデジタルデザイン及びコミュニケーションの修士号を修得しています。

本投稿は、英語の文献を元に翻訳または抄訳及び校正を行っており、本サイトに掲載されている全ての情報や画像の著作権は、当社(マスターコントロール株式会社)に帰属します(他社提供のクレジット表記入り画像等を除く)。コンテンツの再発行及び再配布は、個人利用の場合を除き、当社より許可を得た場合のみ可能です。また、本ブログを含む当社のWebコンテンツを利用することで発生する損害やトラブルについて、当社は一切の責任を負いません。

2016年3月9日水曜日

ISO 9001:2015:経営手法に対する特効薬として

管理業務の悩みで寝不足になってませんか?
ISO 9001:2015が助けになるかもしれません!?
Matt Leiphart
Cavendish Scott, Inc.


ISO 9001:2015は、管理職の方々の日々の悩みへの解決策になるかもしれません。新しいISO 9001の最大の変更点は、経営陣に対して、問題を未然に防ぐための取り組みを求めています。問題を回避するシステムが備わっていれば、経営者には安心感が生まれ、細かな配慮を行き届かせてシステムを育成することができますので、安心して眠ることもできるのです。

私も長年、管理職を務めた経験があり、組織の責任者というのは、常に次に挙げるような内容を考えているかと思います。

  • 目標達成
  • 大切なお客様の満足度の維持
  • 進捗状況の監視
  • 効果的な業務管理

目標を達成するということは、想定される結果を考慮しながら組織全体の方向性を定め、障害となりうる課題への対応を行うことです。ISO 9001:2015の第4.1項では、組織の目標、戦略的方向性や意図する結果を考慮し、目標達成に関連する組織内外の問題を特定することが述べられており、これを「組織目標(Organizational Context)」と呼んでいます。この分野において、不明な点が多かったり、発生している問題が不明確または対応中である場合は、経営者に不安を与える要因ともなります。

また、製品やサービスに影響を及ぼす顧客以外の利害関係者を特定し、彼らの要求事項を把握する必要もあります。経営面から考慮すると、こうした利害関係者は成功に欠かせない存在と認識されており、ISO 9001:2015第4.2項では、利害関係者の要求について記載されています。ISO 9001:2015は、経営者に対し、こうした利害関係者のニーズを満たす取り組みを支援する内容となっているため、経営者も安心して取り組むことができるでしょう。



本記事に関連する動画


成功の鍵は、リスクベースの考え方にあります。組織目標や利害関係者の要求事項を理解するということは重要ですが、新しい規格の内容はそれだけに留まりません。組織固有の問題や要求事項、リスクやチャンスに対し、マネジメントシステムを整備していくことにあるのです。重要度に基づき取るべき行動を決定し、頑強な評価プロセスによって定期的なモニタリングを実施します。別のアプローチが必要となれば、そこで修正をします。第4項の評価については、第6.1項及び6.2項にも述べられていて、リスクとチャンスを明確にして目標を設定するとしています。現行のISO 9001が航海に必要な船舵のように方針が規定されているとするならば、ISO 9001:2015には、風向計やコンパス、地図、スピーカーが加えられ、より具体化された方法が規定されているということです。

次に、モニタリングの変更点についてお話しします。ISO 9001では常に、測定及びデータ分析に関する内容が用いられていましたが、新規格では全く新しい基準の概念が取り入れられています。モニタリングや測定、分析、評価における要求事項は、規格全体にわたって記載されています。2008年版と同様、要求事項が直接的に記載されている項目は第9.1項の1つのみです。2008年版とは異なるのは、2015年度版ではモニタリングや測定、分析、評価を行わなければならない対象について、別の項目でも規定している点です。第9.1項以外の要求事項は、25箇所以上ありました。以前は、「重要と判断する箇所をモニタリングし、測定を行う」としていた記載が、現行の要求事項ではより規範的であり、包括的かつ全般的な内容となっています。

運用管理に関しては、新ISO 9001で大幅に変更された点はなく、運用管理に関する細かな表現などが変わり、経営者をより支援する内容となっています。計画的、非計画的、いずれの変更もその管理に関する新しい要求事項があります。ISO9001:2015では、「知識(Knowledge)」を特定し、利用できるようにしておかなければならないこととしています。

「力量(Competence)」とは、今までトレーニングの考慮の際に注目されていたテーマです。コミュニケーションプロセスについては、より明確に要求事項が定義されています。アウトソーシングやコンサルティング、委託などの外部ソースからのサービス提供に対する管理についても、今回詳細に規定されています。不適合の管理については、不適合製品だけにとどまらず、「不適合の過程出力(nonconforming process outputs)」が含まれています。こうして強化された内容は、いずれも経営者にとって根本的な変更を求めるものでなく、2008版の盲点に着目した結果、現行の改定に至ったものとなります。それではここで、経営者の皆様の為のまとめ項目です。

  • 一歩引いて、全体像を眺めてみてください。そして、組織内外の課題のうち、意図した結果や目標、戦略的意図を実現する上で組織にとって役立つ、あるいは妨げるとなる可能性のある課題を特定します・・・できていれば、チェックマークをつけてください。

  • 組織が影響を及ぼす(または影響を及ぼす可能性のある)関係者を特定してください。このような利害関係者の要求事項を定義し、その利害関係者や要求事項がマネジメントシステムに関係するのか、意識的に判断して行く必要があります・・・できていれば、チェックマークをつけてください。

  • リスクやチャンスのうち、全体的な状況に影響を及ぼすものや、組織内外の問題、利害関係者の要求事項に関係するものを特定してください。 計画的にリスクに対し安全対策を講じ、チャンスを最適化した後に、リスクとチャンスに関するモニタリングの方法を決定します・・・できていれば、チェックマークをつけてください。

  • 作業方法は指定された手順に準拠し、関係周辺の管理を行ってください。やらなければいけないことを1つずつ着実になしていくだけです。予測できる変更と予測できないない変更をプロセスに組み入れておけば、逸脱があった場合も、要求事項で求められる水準を維持しつつ結果を得ることが可能です。・・・できていれば、チェックマークをつけてください。

結果に焦点を当てたマネジメントシステムでは、組織の重要度の高い利害関係者に着目し、運用管理やモニタリング方法も組み入れて追跡可能な状態となる(必要に応じて迅速に追跡を実施する)ことができるのです。あなたの最高責任者に是非お伝えください。快眠のために枕をオーダーする代わりに、ISO 9001:2015を是非お読みくださいと。


著者のご紹介
Matt Leiphartは、1992年以降、ISO 9001等、マネジメントシステム規格にかかわる業務に従事。 13年間、コンサルティング会社の代表を務め、マネジメントシステムの評価ではスコアリング方式を採用。第三者組織の監査役であり、審査機関のリーダーとしての管理理システムの監査技術のトレーニングプログラムをこれまでに数多くの人々に提供した実績を誇る。様々な経験を踏まえ、継続的な改善やビジネス目標達成のためのツールとして、マネジメントシステム規格を最大限に活用するといったユニークな視点に基づいたアイデアを提供。現在は、Cavendish Scott, Inc.で、附属書SL及びISO 9001:2015への対応に向けた新たなトレーニングプログラムを開発し、コンサルティングを行っている。

Cavendish Scott, Inc.は、30年以上にわたり、ISO 9001に関する規格のコンサルティング、トレーニングプログラム、監査に取り組んでまいりました。長期にわたり、規格が進化していくのを見ていると、検討中の規格がどのような方針で最終化されるのか、非常に楽しみです。弊社では、トレーニングプログラムやコンサルティングソリューション、監査、ギャップ分析、プロジェクトプランニングパッケージなど、クライアントの皆様をサポートするサービスを提供いたしております。経営者に向けたリスクベースの思考のメリットについての講習会も開催しております。
Cavendish Scott, Inc.は常に、正確で専門性の高い、効果的なマネジメントシステムソリューションの創造に励んでおります。杓子定規に処理するのではなく、皆様の企業が付加価値のある認証を獲得できることを弊社が保証します。詳しい情報はこちらから。

本投稿は、英語の文献を元に翻訳または抄訳及び校正を行っており、本サイトに掲載されている全ての情報や画像の著作権は、当社(マスターコントロール株式会社)に帰属します(他社提供のクレジット表記入り画像等を除く)。コンテンツの再発行及び再配布は、個人利用の場合を除き、当社より許可を得た場合のみ可能です。また、本ブログを含む当社のWebコンテンツを利用することで発生する損害やトラブルについて、当社は一切の責任を負いません。