計画的/非計画的を問わず、”Change”は医薬品開発に不可欠な要素です |
独立系コンサルタント
1. “Change”の概念
医薬品の製造分野において、バリデーションや変更管理、逸脱、OOSなどは、個々の独立性が比較的高い業務であると考えられています。
また、このような業務は、計画的/非計画的を問わず、何らかの「Change」に関係しています。バリデーションや変更、OOSといった個別の用語を用いることによって、どのような「Change」が発生しているのかを容易に認識することができる一方で、各業務の独立性が強くなりすぎると、業務プロセス間で求められる連動性が失われ混乱や矛盾が生じる危険性があります。
まず、完全に独立した業務としての認識に対して、「変更」及び「逸脱」の言葉としての定義を下記に記載します。
- 変更:決められた物事などを変えること、変え改めること
- 逸脱:本筋や決められた範囲からそれること
どちらの定義でも、ある状態から別の状態に変化する動きを示しています。医薬品業界では、バリデーションされた状態から新たな状態へと変わる動きであり、どちらの定義も「Change」を意味します。違いは、医薬品業界で通常「変更」と呼ばれるものは新たにバリデーションされる状態への意図的な動きを意味するのに対し、逸脱はバリデーションされた状態からの意図しない変化を意味する点です。
バリデーションや変更管理、逸脱、OOSの関連性に対する概念モデルを下記の図1に示しています。
2. 検証(バリデーション)された状態とは
この用語は通常、業務プロセス(試験や管理業務も含まれる)に対して使用されるもので、各業務プロセスに対する許容範囲が定義されており、原材料や運用、管理プロセスなどを通じて、安全性や有効性、品質などの要求事項を満たすアウトプット(製品またはデータ)が継続して供給できているかという点を示すものです。主な特色は以下の通りです。
- 変動が意図的か否かを判断する基準値を定義
- 通常は市場展開をする上で必須となる規制要件
3. 検証済の状況・状態に対する”Change”
医薬品業界における一般的な”Change”とは、既に試験または検証などが実施された状態が、適切な管理下において計画的に変更され、新規の検証または再検証・追加検証が実施され、検証結果が更新されるパターンであり、この場合の代表的な特長は下記の通りです。
- 計画的であり、実施される作業は全て事前に計画されている。
- 正式な変更管理プロセスに基づいて実施される(4項参照)。
- 新規でも更新でも、必要な検証作業(バリデーション)が実施されている。
- 当局への報告が必要な場合、製品が市場に展開される前の段階で、試験や検証結果が報告されている。
- GMP文書の新規作成または改訂の場合、当該文書が適切に配布され、担当者への教育が実施されている。
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4. 変更管理
変更管理とは、安全性や有効性、品質、または規制要件の観点から、実施する変更から否定的な影響が発生しないように、適切な管理下において発生する一連の業務のことを意味しています。ここでいう「管理」とは、第3項で触れたような計画的な”Change”に対する管理以外にも、第5項で説明する「逸脱」のように、発生後に問題を軽減または除外することが必要となる想定外の”Change”に対する管理業務があり、その特徴は下記の通りです。
- 実施予定の変更や必要業務、想定される変更後の状態などが、計画として正式な文書に定義されている。
- 実施前に定義した計画した業務が全て完了しており、また結果に対するレビュー結果も含めて文書化されている。
- 市場に展開される前に、変更後の結果に対して必要な認可・認証が全て取得されている。
- GMP文書の新規作成または改訂の場合、当該文書が適切に配布され、担当者への教育が実施されている。
5. 逸脱管理
一般的に逸脱とは、検証された結果に対して計画的ではない変更が発生することです。一方で、規格外(OOS)とは、逸脱の一種(6項参照)ですが、こちらは試験結果やデータが、事前に検証された数値から外れていることを意味しています。
一般的な定義では、逸脱が原因で発生する変更は非計画的なもので、発見にある程度の時間を要します。また、逸脱が確認された製品の他のバッチにも影響が出ている可能性があります。その為、逸脱の管理(検証済の状態に対する非意図的な変更)は、意図的に実施する変更に比べて、複雑性が高いことが多いです。このような変更で鍵となるステータスは下記の通りです。
- 逸脱が確認された製品及び影響が生じている可能性の高い他のバッチに対する影響度調査
- 問題に対する迅速な軽減措置や管理、必要に応じて、正式な変更管理プロセス
(CAPAのCAとして)の適用 - 根本原因の解明:追加の是正措置や予防措置に繋がる情報が発見できる場合もある
図2-逸脱管理プロセス
OOSとは、大項目としては逸脱に属する事象の一つであり、検証または試験された限界値から外れた場合の管理手法または試験結果を示しており、この特徴は下記の通りです。
- OOSの管理プロセスの論理は、基本的には他の逸脱に関連するものと同じです。
- OOSの処理において、製品の安全性や有効性、品質、規制に関連する判断は、潜在的に重要な影響を与える可能性がある為、ガイダンスなどの規制・規格要件では、OOSにおける調査業務の解釈及びそのプロセスの具体的な定義が定められています。
7. 根本原因分析
逸脱の原因を特定する上で、効果的な根本原因解析の実施は、問題の解決プロセスにおいて重大な要素です。根本原因が特定できないケースもありますが、潜在的により大きな問題となるのは、発生した逸脱には関連しているが異なるポイントに焦点が当てられ、結果、誤った関連性が真の根本原因であると限定してしまうことです。以下に例を示します。
- バッチ計算の誤りに伴う逸脱が発生しました。
- 誤ったバッチ計算を行ったオペレーターが特定されました。
- そのオペレーターと発生した逸脱の内容から、根本原因は、オペレーターの能力不足となりました。
- これが根本原因である可能性もありますが、バッチ処理の指示書内にある計算に関する説明が不十分で分かりにくい点や、オペレーターに対して実施された教育が非効果的であったことが根本原因である可能性もあります。
- このような状態では、真の根本原因が特定できていない為、その後のCAPAの効果も損なわれてしまいます。
8. 是正措置及び予防措置(CAPA)
CAPAは、図2に示す通り、逸脱管理に関するGMPに要件において、重要な役割を担っています。
CA(つまりCAPAにおける是正措置)は、検出された逸脱の即時的な影響を管理する目的で講じられる措置(及びその記録)を示しており、以下の内容が含まれます。
- プロセスを管理状態に戻すために必要な措置の実施及び評価、また、予防措置が完了するまでのトラッキング
- 逸脱が認められたバッチよりも前のバッチで逸脱が未検出である可能性の評価、また、逸脱が確認されたバッチの中で、販売されている製品の安全性や有効性、品質に悪影響を及ぼす可能性が高い場合、関連する薬事当局への通知やリコールの処理
- 関連する製品や業務プロセスの逸脱に対する評価、また、必要に応じて措置を実施※参照:8項「複数の業務プロセス、または複数の拠点に対するCAPA」
根本原因の調査に関する記録は、適切な予防措置(CAPAにおけるPA)の前提条件です。根本原因の特定は、将来的な逸脱を予防するために必要なプロセスや管理に対する変更を定義する為の論理的な根拠になります。根本原因について確実な根拠を限定することができない場合、逸脱を迅速に検出する管理を行う必要があります。
予防措置とは、根本原因解析によって特定された変更のタイムリーな実施及びその記録なのです。
9. 複数の業務プロセス、または複数の拠点に対するCAPA
逸脱が認められたバッチに対して措置を講じるというのが一般的であり、次のようなケースに対する配慮に欠けていたという点が逸脱の取り扱いにおいて過去にみられた一般的なエラーとしてあげられています。
- 問題の発生した拠点において実施されている他の製造や試験の中で、同じ業務プロセスが適用されている他の製品や管理でも似たような問題が発生していると考えるべきです(複数の業務に対するCAPA)。
- 企業に複数の拠点がある場合も同様で、同じ業務プロセスが適用されている他の製品や管理でも似たような問題が発生している可能性があります(複数の拠点に対するCAPA)。
GMPの論理では、複数の業務プロセス及び拠点に対しても、潜在的に問題が発生する可能性がある場合、その管理が要求されています。規制当局もこの考え方を支持する傾向にあり、以下のような告知及び指摘がされています。
- GMP要件の解釈として、複数の業務プロセスまたは拠点にて問題が発生する可能性に対する調査も含めるべきと明示的に考えています。
- ある企業において最初に逸脱が確認され、それ以降に同一企業の他の施設でも同様の逸脱が確認された場合、より深刻な指摘として扱われ、その内容は、確認された逸脱だけでなく、問題解決の為に必要となる合理的でタイムリーな措置を実施しなかった管理責任の欠如も問われる可能性があります。
【参照】
(1)大辞林 第三版の解説
著者のご紹介
Peter Murray(peter.x.murray@btinternet.com)は、現在、GSKのコンサルタントを担当しており、それ以前はQuality Directorとして医薬品製造管理に従事していました。その経験は45年に及び、主に品質保証とGMPコンプライアンスマネジメントに関する有効な戦略策定及び導入を中心とした経験を有しています。1990年以降は、GSKのCorporate Quality Oversight Groupの一員としてSpecialist External Supply Procurement Teamに所属し、そのQuality Directorとして特に委託製造業者管理の強化に注力していました。また、Qualified Personとして登録され、MC2 British Pharmacopoeiaの専門諮問委員会のメンバーでもあります。
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