Mickey Garcia
Segment Manager, Medical Devices, MasterControl Inc.
重要なのは「業務の品質」ですか、それとも「品質に係る業務」ですか? |
品質とマネジメントの分野は、1950年代にW. Edwards Deming氏が先駆者として活躍して以降、著しい進化を遂げました。その後、トータルクオリティーマネジメント(TQM)やシックスシグマ、最近では「リーン○○方式(Lean)」など、各時代のベストプラクティスとして、意匠を凝らした名称が付けられた手法が誕生し続けました。このように、既に様々な手法が存在している中で誕生したのが「パフォーマンス エクセレンス(Performance Excellence)」ですが、単なる新しい業界用語の一つと見てしまう方も多いと思います。
しかし、手法として効果的な事例も現れてきており、「品質に係る業務」の先を見据えて、「業務の品質」を注視すべきというMikel Harry博士の考え方に関心が集まってきています。
しかし、手法として効果的な事例も現れてきており、「品質に係る業務」の先を見据えて、「業務の品質」を注視すべきというMikel Harry博士の考え方に関心が集まってきています。
なぜ「パフォーマンス」なのか?
最初に、従来の「品質」を意味する言葉として、なぜ、「パフォーマンス」という用語を使うのかという理由について考えてみましょう。一般的に「品質」と言えば、「製品の品質」であると考える方が多く、出荷した製品の品質であれば、その認識で正しいでしょう。しかし、企業活動における品質について言及する場合は、「品質」という用語だけでは、その意味の一部を伝えられたとしても、企業活動における品質全てとしては伝わらない可能性があります。
この場合、「品質」の代わりに「パフォーマンス」という用語を使用することで、最終製品に関する「品質」に限定せず、バリュー・チェーンにおける様々な企業活動の「パフォーマンス」を意味することが可能となります。
この場合、「品質」の代わりに「パフォーマンス」という用語を使用することで、最終製品に関する「品質」に限定せず、バリュー・チェーンにおける様々な企業活動の「パフォーマンス」を意味することが可能となります。
「パフォーマンス」という用語を使用するもう一つの理由として、一般的に「品質」という用語は、品質管理や品質保証部門が管理するシステムやプロセスを意味している点があります。
規制要件でも、「品質業務とは組織内で別個かつ独立した業務であるべき」と義務づけている為、こうした意味合いが強いのです。しかし、現代の企業運営において品質を企業活動に組み入れることは、全ての部門で全社員の責任で行われるべきとされています。幸いなことに、「業績(Business Performance)」は、品質管理や品質保証部門のみの責務とはなっていません。最終的な確認は品質管理や品質保証部門で行うとしても、それは組織全体の責務であると考えられています。
規制要件でも、「品質業務とは組織内で別個かつ独立した業務であるべき」と義務づけている為、こうした意味合いが強いのです。しかし、現代の企業運営において品質を企業活動に組み入れることは、全ての部門で全社員の責任で行われるべきとされています。幸いなことに、「業績(Business Performance)」は、品質管理や品質保証部門のみの責務とはなっていません。最終的な確認は品質管理や品質保証部門で行うとしても、それは組織全体の責務であると考えられています。
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また、品質と業績は敵対関係にあるという考えを持つ方も多いです。
「より優れた品質を常に確保すべきか?」という質問には、模範解答としては当然、「Yes!」となるでしょう。しかし、良く熟考して回答してみると、答えは「No」となるはずです。私たちが住む世界に存在するリソースは限られていて、その限りあるリソースを使用して最高の品質を確保する方法を考える必要があります。規制当局も、品質向上を実現する手法として、「リスクベースアプローチ」を推進しています。これは、品質向上やリスク低減活動に対して限られたリソースを割り当て、投資に見合った価値を生むことを推進しているのです。
「より優れた品質を常に確保すべきか?」という質問には、模範解答としては当然、「Yes!」となるでしょう。しかし、良く熟考して回答してみると、答えは「No」となるはずです。私たちが住む世界に存在するリソースは限られていて、その限りあるリソースを使用して最高の品質を確保する方法を考える必要があります。規制当局も、品質向上を実現する手法として、「リスクベースアプローチ」を推進しています。これは、品質向上やリスク低減活動に対して限られたリソースを割り当て、投資に見合った価値を生むことを推進しているのです。
パフォーマンス エクセレンスは、「優れた品質」に限定せず、より広義的な「成果」に言及しているのが特長です。この手法で考えている最悪のケースとは、限られたリソースを使って品質を最大限に高め、優れた成果を得ることです。一方で、最高のケースとは、Philip Crosby氏が述べるように、企業活動のスピードと対応を加速させ、「様々な不適合にかかる支出」を削減するといった、品質改善を活かしながら優れた成果に導くという形です。
なぜ「エクセレンス」なのか?
では、品質について語る場合に、なぜエクセレンスという用語を好んで用いているのでしょう。この質問に答える前に、まず、「品質とは何か」ということを考えてみましょう。
品質マネジメントシステムが企業に導入され始めた頃、「品質」とは設計仕様に準拠することであると定義されていました。現在においても、この定義は製造部門の運用における「品質」を示すものであり、また多くのケースにおいて、製品仕様は顧客要求事項の要約として考えることができます。製品仕様とは対象が限定されたものですので、この解釈の中では、「完璧な品質」を実現することも可能となります。
ただ、「品質」という言葉の定義は常に変化しており、現代では、「顧客要求事項への適合」という考え方が重視されています。この定義に沿った場合、「完璧な品質」を実現することは、非常に難しいことであるという現実に直面します。顧客からの要望とは、性質上、常に増え続けるものであり、仕様として定義しようにも無限大なのです。例えば、栓抜きのような単純な製品でさえも、価格や耐久性、利便性、携帯性などの改善が常に求められます。そのような性質を踏まえると、品質マネジメントシステムが目指すべきゴールとは、「許容できる品質」と捉えることができます。つまり、「完璧な品質」といった理想は実現できない為、許容範囲を予め定義し、それを基準に判断することになります。ただ、この「許容できる品質」も、「分散の管理」と「継続的改善」という現代の品質に欠かせない2つの要素が無視されており、直感的には間違っているように思えます。
タグチメソッドやシックスシグマから学んだように、「許容できる品質」に収まるだけでは不十分で、品質が限りなく完璧に近づくよう積極的に努力する必要があります。従って、品質という言葉は、単に「許容できる品質」に留まらず、より高いレベルを探求するという意味を包含していることが多いのです。
また、「許容できる品質」と「継続的改善」は、お互いが対立する立場にある概念です。「継続的改善」とは、その言葉が示す通り、終わりのない考え方です。それは終わりのない旅のようなもので、絶えず新しいことにチャレンジする必要があります。つまり、今日はその品質で許容されたとしても、明日は許容されないかもしれないのです。
この2つの概念を踏まえると、現代における「品質」のゴールとは、「完璧な品質」でも、「許容できる品質」でもなく、それは、「高い品質」でありながら、目標に辿り着けず中途半端な位置づけに存在しているものなのです。このような状況がある為、単に「品質」という言葉を用いるのではなく「エクセレンス」という用語が適していると考えられる理由となります。実際、ウェブスター辞典では、エクセレンスを「非常に優れた品質」と定義しています。つまり、品質マネジメントシステムの目的が「高い品質」であると強調したい場合には、エクセレンスという用語を使用する方が使いやすいのです。
パフォーマンス エクセレンスという用語は、単に製品の仕様を満たすというレベルから、「バリュー・チェーン全体を通じて大きな成果を生み出し、顧客の期待に応える」という考え方にシフトする上で、非常に重要な概念となります。なぜなら、それは「品質に係る業務」から「業務の品質」へ注目すべきポイントへシフトしているからです。
パフォーマンス エクセレンスは新しく誕生した用語のようにみられますが、実際は、そうでもありません。例えば、1951年初版の「Juran’s Quality Handbook」の現在の副題は、「The Complete Guide to Performance Excellence」です。また、優れた品質に与えられる「Malcolm Baldridge National Quality Award」は、「Achievements in Performance Excellence(パフォーマンス エクセレンスにおける著しい業績)」に対して授与されるものと紹介されています。今こそ、パフォーマンス エクセレンスという用語の概念を、より明確に打ち出していく時期なのではないかと私は思います。
著者のご紹介
Mickey Garciaは、University of Floridaにてメディカルエンジニアリング学士号、Stanford UniversityにてMBAを取得後、Johnson & Johnson社で製造部門オペレーション及びシステムエンジニアとしてキャリアをスタートし、自動化生産システムの設計やバリデーションの責任者として活躍、また、シックスシグマブラックベルト品質改善プロジェクトも主導しました。その後、ライフサイエンス分野のソフトウェア企業において、QMSやECM、MES、 PLMなどの製品戦略もリーダーとして主導しました。2014年からマスターコントロールに入社し、現在は、Product Managerとして、医療機器業界向けソリューションの戦略立案や企画を担当しています。
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